2013年06月12日

人形の島  2

ニキは海で漁をしながら思っていた。
「毎夜来るという船、あれはおそらく財宝を探しにきている海の向こうの国の船じゃないか。大勢の人が静かに何かを探している、ってのは、それだけたくさんの外の人がこの島に来ているんだろうな。俺も探してみるかな。別に財宝なんてどうでもいいが、海の向こうに何があるか知りたい。」
そう考えたニキは櫂を取り出して、舟を岸に向けた。岸に向かって舟が動き出すとニキは奇妙な感覚にとらわれた。
「誰かが見ている…?」
舟にはニキがいるだけ。辺りは一面の真っ青な海。空には青い空と白い雲、照りつける太陽。誰かに見られているはずがない。気のせいだろうと、ニキは岸に向かって櫂を必死にこいだ。
 岸に舟をあげると、ニキはダダの家に向かった。村の大通りを抜けて大きなガジュマルの木の下を抜け、長老の小ぢんまりした家の隣の、バナナの葉で囲まれた井戸を通り過ぎると、ダダは家の中で茶を飲んでいた。
「ダダ、船、見に行こうぜ」
ニキは庭でダダの姿を見るなり言った。
「ニキ、まず落ち着け。船って何だ?」
ダダは自分と生まれた日の近いこの友人をなだめて言った。
「船だよ。入江の…!」
ニキは少し興奮して言った。
 ニキとダダは仲がよかった。生まれた日が近いというのもあった。ニキは漁をするのに必要な力強い腕と大きな目をしていた。けれど、考えることは少し苦手だった。それに対してダダは、島で一番の物知りと言われるくらい、いろんなことを知っていた。目は切れ長で、向かい合って話していると、心の中を見透かされそうな気分になってくる。けれど、ニキのようなたくましさはなく、力仕事は大の苦手だった。二人は自分にないものを持っている互いを信頼していたし、頼りにしていた。ニキは何かあると、いの一番にダダに相談しに来るのだった。
ダダは冷静に言った。
「船を見ることはできるのかな。今まで何人の人が船を見ようとした。けど見ることはできなかった。それをお前はどうやって見つけようっていうんだ?」
ニキは何をいまさらという風に答えた。
「だから、それをダダに考えてもらおうと思って来たんじゃないか。」
ダダはやれやれと思った。けれど、ダダはこんなニキを嫌いではなかった。
 二人はニキの家で作戦を練ることにした。ニキの家は市場の外れにある。門には石づくりの黒い水牛が飾ってある。この島の守り神だ。ふつうは家の中に飾るのだが、ニキはあまり家の中にはいないので、門に飾っている。ダダはそれを見るたびに、ニキはやっぱり変わった奴だと思ってしまう。
「ダダ、太陽が出ているうちに、入江に行っておいたほうがいいかな。」
「そういえば、昼間にあの入江に行くって発想はなかったな、なんでだろう。」
「ん?どういうこと?」
「今まで船をみたいと考えた人も、明るいうちに入江を調べようとした人はいなかったんだ。夜に船が来るとは言っても、明るいうちに調べておくのは、本来当たり前のことなんだけどな。」
「なんかダダ、一度船を探そうとしたことあるように聞こえるな。」
「お前、普段ポケーっとしてるけど、こういう時はカンがいいんだな。」
「じゃあ…」
「うん、探したことあるんだ。船。」
「見つかったのか?」
「いやいや…見つけてたらこんなしてないって。探そうと思ったんだよ。だけどな、太陽が出ているうちに入江を調べるってことは考えつかなかったな。全く。普通、大事なことなんだけれど。奇妙なことだ。」
ダダはこう言ったきり、腕を組んで、うつむき始めてしまった。ニキには何が奇妙なことかは分からなかったが、とにかく太陽の出ているうちに入江を調べることにした。


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Posted by はぬる at 20:04│Comments(0)創作
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