2013年06月16日

人形の島  4

 太陽が沈み星が瞬き始めた。月は出ていなかった。いつもよりも暗い港を明かりもつけずに、ニキは一人で舟を出した。見上げると羊星が輝く。陸地のほうには七つ星と不動星(うごかずのほし)が大きく瞬いていた。海のほうには三つ星と十字星が水平線の上にチカチカと光を放っていた。ニキは三つ星と十字星が好きだった。海の向こうを照らしているようで、海の向こうを指し示す標のようで、あの星の下に行けばきっと、何か新しい世界があるんじゃないか、といつも考えていた。
ニキはしばらく三ツ星と十字星の間を目指して舟をこいだ後、入江目指して方向を変えた。
星を眺めているとそれほど感じなかった視線が、入江に近付くにつれて、どんどん強くなる。
 入江の岩場に舟をつないで浜辺に降り立つと、入江は暗かったが、太陽の出ているうちに見たときと特に変わった様子はない。ただ、視線はより強くなっていた。何十、何百もの目が自分を見ている。ただひたすら見ている。それにもう一つ気付いたことがある。船はないが近くに何かがいるような気配があるのだ。それが視線のせいなのか、ニキ自身には見えない何かがいるのかは分からない。けれど、確実に何かが近くにいる!
 ニキは怖くなった。ここにいたら、なんだか自分が自分でなくなりそうな、そんな感じがした。ニキは自分の舟を岩場につないだことも忘れて、走りだした。


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Posted by はぬる at 20:49│Comments(0)創作
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