2013年06月13日

人形の島  3

 嫌がるダダを無理にひきつれて入江に来た。辺りは岩と砂浜があるだけで、変わった様子はない。崖が海に突き出ていて、大きな穴があいている。
ニキは言った。
「へー、入江ってこうなってたんだ。」
「ん?この入江に来たことなかったのか?」
「ああ…なんとなく、来ちゃいけない気もしてたんだ。」
「お前は、自分がそう思うところにオレを無理やり連れてきたのか?…正直、オレはなんだかここにいたくないよ。なんとなく不気味だ。」
「うん、ダダも感じてるんだな。」
「何を?」
「いや、視線をさ。」
「そんなものは感じないよ。ただ不気味ってだけさ。」
「いや、感じるだろ?一つや二つじゃない…たくさんの目が、オレたちをじっと見つめてる…。」
「頼む、それ以上変なことを言うなら、もう帰ろう。正直オレは怖いよ。」
二人は、何も言わずにニキの家に帰ってきた。石の水牛は何も変わったことはなかった。庭のバナナやソテツも風に揺れている。
ダダは聞いた。
「視線って何だよ。」
「うん、最初は海で船を探したいって思った時かな。海の真ん中で、視線を感じたんだよ。まあ、気のせいか、と思ったんだ。だって、海の真ん中だぜ?」
「で?」
「それがなあ…さっき、ダダと入江に行った時、入江に近付けば近付くほどはっきり視線を感じるんだよ。それもたくさんの視線だ。視線ってあんなにはっきり感じるもんなんだな。」
「…ニキ…忠告する。船を探そうとするのはやめたほうがいい。」
「なんでさ。」
「オレが探そうとした時、そんな視線は感じなかった。今日もだ。お前が感じたという視線は全く感じなかった。お前が…お前ひとりだけが太陽の出ているうちに入江を調べるって発想をしたのも、何か変だ。」
「ダダ、オレは知りたいんだよ。船の正体をじゃない。海の向こうに何があるかを、だ。この島で唯一島の外から来るもの…入江の船じゃないか!」
「唯一じゃないけどな。」
「何?」
「おそらくもともとこの島のものじゃなかったもの、もう一つあるよ。」
「それは何?」
「村の大きな交差点の空き家の、柱にかかっているあの変な物だよ。」
「あ…」
「あれは何なんだろうな。明らかに誰かが作った物なのに、誰もそれが何か、何に使うものか、名前すら知らないんだ。」
「うん。」
「ニキ、お前の気持ちは分かったよ。でも、なんだかオレは恐ろしいよ。」
「それでもオレは知りたいんだ…。この島の外に何があるか…自分でもよくわからないけれど、止められないんだよ」
こうなったニキを止められないことをダダはよく知っていた。何より、ニキなら船の正体を突き止められるのでは、という期待感も少なからずあった。ダダは島の外には興味がなかったけれど、船の正体には興味があった。


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Posted by はぬる at 21:28│Comments(0)創作
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